「ETC普及促進策について(案)」の概要
1.はじめに
- 我が国のETCは、全国の有料道路を一つのシステムで利用でき、不正利用に対しても高いセキュリティを有する優れたシステム
- ETCの普及促進策について、国民や利用者の意見を踏まえつつ、早急な具体化に努め、可能なものから順次実施
2.ETCの整備効果
- 利用者の利便性・快適性が向上
- 都市間高速道路渋滞の3割を占める料金所渋滞が解消
- 料金収受経費等の管理費について削減が可能
- 弾力的で多様な料金施策の効果的な実施が可能(特に都市高速において)
さらに完全ETC化により、
- 有人レーンを大部分廃止
- 一層効率的な政策目的の実現や、利用者ニーズに十分対応した料金体系の構築が可能
3.ETC普及促進のための課題
- ETC車と非ETC車における不公平感の存在
- 車載器の価格抵抗の存在
- 高率の現行割引制度の存在
4.普及促進策の展開
(1)基本的考え方
- 整備効果がより顕著となる利用率50%をできる限り早急に達成
- 概ね5年後を目途に都市高速道路においてETCに限定した利用を目指す
(2)ETCの展開戦略
a. 導入段階における対策
- 期間限定上限付割引の実施(主に一般利用者等を対象)
- 車載器購入等に対する支援(主に道路運送事業者等の大口利用者を対象)
- 前納割引方式の導入
- ETCを活用した料金施策の実施
- ETC専用レーンの拡大
- 車両への車載器のビルトイン化、カーナビゲーションシステムと車載器との一体化、二輪車に対応した車載器の開発等
- タクシー事業者等の業務に即したシステムの開発・普及
- 「ETCについて意見を承る会」(仮称)の開催
b. 普及段階における対策
- 現行割引制度の見直しの検討
- ETCを活用したスマートICの整備促進
- SA・PAにおけるETC専用ゲートの整備促進
- ETC技術の多目的利用の促進
- 完全ETC化に向けた条件整備
「ETC普及促進策について(案)」
制定:平成12年3月24日建設省道有発第19号
最終改正:平成20年12月1日
1.はじめに
高度道路交通システム(ITS)は、最先端の情報通信技術などを用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する21世紀の社会システムであり、渋滞や交通事故、環境への悪影響などといった道路交通問題を積極的に解決するにとどまらず、ITS情報通信関連市場全体では波及効果を含めて約100兆円にのぼる経済効果を見込むビッグプロジェクトである。平成8(1996)年に政府において我が国のITSに関するマスタープランが策定され、本格的なスタートを切って以来、官民が一体となってその実現に向けた取り組みが行われているところである。
ETCは有料道路の料金所において一旦停車することなく路車間の通信により料金支払いを行うシステムであるとともに、双方向の路車間情報システムを活用したサービスへの展開やICカードの汎用化及び電子マネー化などを促進させ、利用者サービスの大幅な向上を図るものであり、ITSを構成する重要な施策の一つに位置づけられている。我が国においては、平成5(1993)年に道路技術五箇年計画に盛り込まれ、全国の有料道路を一つのシステムで利用でき、不正利用に対しても高いセキュリティを有する優れたシステムを目指して本格的な検討が行われてきたところである。
また、世界規模で生じている情報通信技術(IT)による産業・社会構造の変革(いわゆる「IT革命」)の中で、我が国のETCは、IT革命を先導する役割を担うことも期待されるところである。
本年4月には、モニター車約30,000台を対象として千葉地区を中心とする首都圏の主要な料金所において試行運用が開始され、平成12(2000)年度中には全国約600料金所で利用可能となり、平成14(2002)年度末までには全国約900料金所に展開することとなっている。
こうした状況を踏まえ、本部会では、我が国の有料道路制度に大きな変革をもたらすと期待されるETCについて、その早急な普及促進が極めて緊急かつ重要な課題であると考え、今後実施すべき普及促進策について整理した。
国及び各公団等においては、ここで指摘した普及促進策について、国民や利用者の意見を踏まえつつ、早急な具体化を図った上で、可能なものから順次実施し、利用者がETCを利用しやすくなるような環境づくりに努める等により、ETC普及に全力を挙げて取り組むよう望む次第である。
2.ETCの整備効果
ETCは、従来の料金支払いシステムに大きな変革をもたらすものであり、以下に掲げるような各般にわたる整備効果が期待されるところである。
(利用者側の視点)
料金所ノンストップ通行による渋滞の回避や通過時間の短縮、キャッシュレス化による各公団共通の簡易な決済が可能となることにより、利用者の利便性・快適性が向上する。
(交通流の視点)
ETC利用率の向上により、都市間高速道路渋滞の3割を占める料金所渋滞が解消に向かう。なお、都市高速道路においては本線上の渋滞の影響等もあり、その効果は相対的に減殺される。
(コスト縮減の視点)
ETC利用率の向上に伴い、料金収受経費等の管理費について削減が可能となる。
(新たな料金施策の視点)
環境対策等特定の政策目的や既存ストックの有効活用、さらには利用者ニーズ等の観点を踏まえた弾力的で多様な料金施策の効果的な実施が可能となる。特に都市部においては、こうした料金施策の導入により、交通需要マネジメントが可能となるため、その環境改善効果をはじめ社会的効果は非常に大きい。
(完全ETC化による効果)
上述のETCの整備効果は、ETCの利用率が100%になれば飛躍的に高まることが見込まれる。
例えば、コスト縮減については、有人レーンを大部分廃止することができることから、料金収受経費等の管理費の大幅な削減が可能となるとともに、ETCを活用した新たな料金施策についても、すべての車両がETC化されていれば、よりきめ細かな割増・割引等メリハリのある料金設定が可能となることから、一層効率的な政策目的の実現や、利用者ニーズに十分対応した料金体系の構築が可能となる。
また、完全ETC化は、こうした料金施策とも相俟って、既存の道路ストックを有効活用した交通流の最適化にも資することとなる。
3.ETC普及促進のための課題
ETCはそれ自体、利用者に対し、料金所ノンストップ通行等一定のメリットをもたらすシステムではあるが、ETCの普及促進を進めるに当たっては、以下に掲げる課題もあることから、普及促進策については、それら課題に十分に配慮した上で検討を行うことが必要である。
(ETC車と非ETC車における不公平感の存在)
渋滞解消等のETCの整備効果は、利用率が低い段階では、十分に実感できないのみならず、利用率の向上による渋滞解消のメリットは非ETC車も享受しうることから、特に導入初期段階においてETCへの転換のインセンティブが働きにくい。
(車載器の価格抵抗)
車載器価格及び車載器の取付費用については、普及率が向上すれば、大量生産等による価格低下が期待できるものの、導入初期段階において、高額であれば、相当程度の価格抵抗が見込まれ、利用率が低レベルにとどまることが予想される。
(高率の現行割引制度の存在)
現在のハイウェイカード等の前納型割引制度は、後納式のシステムを採用しているETCにおいては、現時点では適用できず、当該制度の利用者にとっては、ETCへ転換すると割引によるメリットを喪失することとなることから、転換が進まないことが予想される。
4.普及促進策の展開
(1)基本的考え方
ETCの普及については、整備効果がより顕著となる利用率50%をできる限り早急に達成することが重要である。
さらに、料金収受経費等を大幅に節減するとともに、各般の料金施策をより効果的に実施するためには、ETC車・非ETC車が混在している状況を早急に解消することが望ましいことから、概ね5年後を目途に都市高速道路においてETCに限定した利用とすることを目指し、その後他の有料道路についてもできるだけ早期のETC限定化に向けて、普及促進策の積極的な展開を図る。
(2)ETCの展開戦略
現在、日本道路公団及び首都高速道路公団においては、千葉地域等において、公募されたモニターを対象としてETCの試行運用を実施中であり、試行運用結果を踏まえできる限り早期に本格運用を開始し、平成14(2002)年度末までにETC対応料金所を全国に拡大することから、この時点で利用者は全国のほとんどの主な料金所で、ETCを利用できるようになる予定である。
普及促進策の実施に当たっては、利用者の支払うコストをはじめ、ETCシステム全体の公正・透明性の確保を図りつつ、利用者のETCへの選択や民間事業者の企業努力を誘導・支援することを基本とし、ETCの全国展開が完了するまでの導入段階及びその後の本格的な普及段階において、各段階におけるETCの整備状況や予想される市場環境等を踏まえつつ、効果的に施策を展開していく必要がある。また個々の施策については、ETC普及促進の緊急性に鑑み、可能なものはできる限り前倒し実施を目指す必要がある。
なお、ETCの普及促進に当たっては、ETCを利用することにより把握される走行履歴等のプライバシーの保護にも十分配慮する必要がある。
(a)導入段階における対策
一般に、車載器の普及台数と車載器価格については、普及台数が増えると価格が下がり、価格が下がると利用者の購買意欲が増し、さらに普及が図られるという相乗効果が期待される。
導入段階では、ETC利用にインセンティブを与えるため、主に一般の利用者等に対して、後述する前納方式の導入時期を見極めつつ、導入段階に限っての時限措置として、一定の上限額を設定した上で、特例の割引を行うことについて有料道路事業の採算性の確保に配慮しつつ、検討を行う必要がある。一方、道路運送事業者等の大口利用者には、車載器の購入等に対し支援を行うことについて検討する必要がある。
また、現在のETCシステムが採用している後納方式に加え、コストや利便性に配慮しつつ、前納方式の早期導入を図るとともに、それにより、現在の前納型割引と同等程度の割引を実施することを検討するなど、中長期的採算性を確保しつつ利用者の利便性を高めていく工夫が求められる。
さらに、都市高速道路を中心に、有料道路の本線や料金所の設置されていないオフランプに路側機を追加設置し、これら路側機による課金等の早期実用化を図った上で、環境対策等特定の政策目的の実現、既存ストックの有効活用、さらには利用者ニーズ等の観点を踏まえた弾力的で多様な料金施策について、試行的実施も含め積極的な展開を図り、ETCの魅力を一層高めていくことが重要である。
また、個々の利用者にとってETCのメリットが実感しにくい段階であることから、ETC専用レーンの拡大を図る等、できる限りETCのサービス水準の向上を図る必要がある。加えて、様々な機会を通じて、利用者、国民から、ETCについての意見を聞くとともに、ETCのメリットを周知していくことが必要である。
一方、民間側においても、ETCのPRをはじめ普及促進のための事業展開を図るとともに、利用者のニーズ等を踏まえ、車両への車載器のビルトイン化、カーナビゲーションシステムと車載器の一体化、二輪車に対応した車載器の開発、タクシー事業者をはじめ道路運送事業者等の大口の利用者の業務の実態に即したシステムの開発・普及等に積極的に取り組むことが期待される。
(b)普及段階における対策
導入段階で講じた施策や車載器の車両へのビルトインの拡大等により、車載器の実質的価格は相当程度低減していることが見込まれるものの、相対的に有利な現行割引制度の利用者をはじめ一部の利用者は、なおETCへ転換しないことも予想されることから、ETCにおいて現在の前納型割引と同等程度の割引を行うことを前提とした上で、非ETC車における現行割引制度の見直しについて検討を行う必要がある。
また、ETCの普及が相当程度進んでいる段階においては、ETCを活用した料金施策について、一層積極的に展開していくとともに、都市高速道路等において利用の程度に一層配慮する等の新たな料金体系の導入について検討する必要がある。
さらに、ETCのサービス水準の一層の向上を図るため、ETCを活用したスマートインターチェンジやサービスエリア、パーキングエリアにおけるETC専用ゲート等の整備を促進する必要がある。
また、民間においては、ガソリンスタンドや駐車場等の支払いにおけるETCの活用をはじめ、ETC技術の多目的利用についても積極的に取り組むことが期待される。
以上のような普及促進策を強力に展開し、ETCの普及率を一層高めていくとともに、ETCが高齢者や身体障害者等を含め誰にとっても使いやすいものとなるよう、その利便性の向上を図る等により、今後の完全ETC化に向けて国民や利用者のコンセンサスが得られるような条件整備に努め、併せて制度的課題について引き続き検討を進める必要がある。